第1回
〜 若手から元気なシニアの皆様への期待(シニアに贈る言葉) 〜
ICT政策系関連団体職員(Z氏)

貴重な機会を頂戴しましたので、現役職員として、元気なシニアの皆様への期待を述べさせて頂きます。

要点を申し上げれば、シニアの皆様のご経験や人的ネットワークをフル活用して、現役をおおいに後押しして頂きたいと考えています。

ビッグデータ、人工知能(AI)、IoT、ロボット、ドローン、高度道路交通システム(ITS)の例を挙げるまでもありません。ICT分野の技術革新やビジネスモデルの変革は、「急速」というより、その速度は年々増していて「過激」です。そのような動きに目を回していると、次はフィンテックだの、新たなサイバー攻撃だの、シンギュラリティ(技術的特異点)だのと、我々の理解を超えることが次々と起きています。

そこで、現役組は何をしているかと申せば、日々の業務に忙殺され、ややもすると、わずか1ヶ月先の業務計画で頭がいっぱいです。取り組むべき行政課題やビジネス領域はどんどん変化しているのに、細切れになったルーティーン業務を墨守し、微々たる資金の獲得作業にいそしんでいます。また、組織の縦割り化は深刻化し、プロジェクト形成では横の連携がとれていません。このため、どこも似たり寄ったりの小粒なプロジェクトをたくさん抱えることになります。

ということで、このような現状を踏まえつつ、シニアの皆様に期待することが3点あります。

1.現役への叱咤激励

まず、長年の経験を踏まえた、大所高所からの「ものの見方」や「考え方」を現役にどんどんインプットして頂きたい。

昔は、電気通信自由化、電波利用料制度創設、地上デジタル放送導入といった巨大プロジェクトが目白押しでした。関係者の理解を得ながら制度づくりを進めるには並々ならぬ苦労があったと思います。しかし最近では、経験やノウハウに欠けることもあり、大規模なプロジェクトが減ってきているように思えます。

現役の中には、これまで産学官の様々な分野で活動して来られたシニアの苦労話や失敗談を貴重なものと考える者がいます。現役で腕をふるっている間は「自分に悔いのない人生を送りたい」と考える人もいます。内容によっては耳の痛い話になるかもしれませんが、真剣勝負で話をし合えるようになりたいものです。

2.人間関係づくり

次に期待することは、現役の人間関係づくりに向けてその「触媒役」をお願いしたい。

シニアの皆様には、分野横断的な広いネットワークをお持ちの方が大勢おられます。一方、現役職員は、コンプライアンス上の制限もあり、いくらもがいても組織や分野の垣根を越えたネットワークづくりには一定の限界があります。

今思えば、昔はOBが音頭をとって、「これは!」と思う現役職員を一本釣りしながら、行政と企業の若手有望株を結びつける政策勉強会が頻繁に開催されていました。出身大学別の産学官懇親会もありました。なかには、「日本酒と宇宙友の会」のような、表向きは意味不明でも、人間が自然と集まってくる不思議な集まりもありました。それをきっかけとして、今もお付き合いさせて頂いている方が大勢います。

シニアの皆様には、数十年後には大きな果実となることを期待して、人間関係づくりのサポートをお願いできないでしょうか。そして現役は、シニアの方に積んで頂いた恩を忘れず、将来は積極的なサポート役に回るべきです。

3.現役とシニアの総力結集

ICTは、社会経済活動の基盤であって、果たすべき役割には非常に大きなものがあります。世の中がICTを基軸として動き始めている以上、ICTの発展を疎かにすると国際競争に敗れ、近隣国に足下をすくわれることになります。ICTに携わる者の「力の結集」が必要ですが、これには現役もシニアも関係ありません。

力の結集は、例えば健康医療分野では「日本版NIH」と呼ばれる形で国立研究開発法人が実現しています。それまでは、基礎研究は文部科学省がやって、それから厚生労働省が制度化して、販売は経済産業省とバラバラでしたが、日本が世界で主導権をとるべく実現したものです。

では、ICT分野で力を結集するにはどうしたらよいか。IoTやAI分野の国際競争力を獲得するため産学官連携が叫ばれています。しかし、その呪文を百万回唱えても、絵空事で終わる場合が多いです。枠組みを作って、予算付けで力尽きてしまうのが現役の悲しい性(さが)であり、過去には死屍累々の連携組織がたくさんあります。

となると、産学官連携のエンジンやオイルになることこそ、シニアの皆様の役割ではないでしょうか。日本が国際競争力を維持できるかどうかは、現役とシニアの志や意欲の「総和」で決まります。現役も頑張ります。シニアの皆様も、末永く、元気いっぱいに、現役の後押しをお願いしつつ、是非その「総和」に加わって頂きたいと願います。

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