第14回
〜 映画史に残るSF映画の傑作(その1) “メトロポリス” 〜
スクリーン憧子


映画界は100年の歴史の中で膨大な数のSF(空想科学)映画を世に送り出してきた。現実には存在しないものを作り出さねばならぬためそこには常に一種の危険が付きまとう。
しかし危険をあえて承知で作るのは映画界の矜持でありまたそれは世が期待するところでもある。ある時はその試みが世の先端を切り開き、その後の世界をリードする役割を果たしてきたと言うことも出来る。
私が本稿で取りあげたい画期的SF作品として必ず必要な要件は、
・優れた想像力で遠い未来を予見し、後世にその先見性の正確さが証明された作品で娯楽性よりも人類の将来に対する真摯な希求がなされている事
・将来起こる現象や将来存在する生命体が革命的に現代と異なる事
・その後のSF映画界に重大な影響を与えていたことである。
数あるSF映画作品群の中から選別を重ね選び抜いたのは次の2作品となった。
「メトロポリス」(1927年ドイツ、フリッツ・ラング監督)「メトロポリス」(1927年ドイツ、フリッツ・ラング監督)
「2001年宇宙の旅」(1968年アメリカ、スタンリー・キューブリック監督)「2001年宇宙の旅」(1968年アメリカ、スタンリー・キューブリック監督)
まず「メトロポリス」はまだワイマール共和国時代の1926年(昭和元年)の製作、1927年公開という、世はまだサイレント映画時代に製作された作品である。映画そのものがまだ黎明期にある時代の作品ながらSFの歴史のみならず映画史の中でも最高の輝きを放っている。著名なアメリカ映画評論家のフォレスト・J・アッカーマンはこの作品を「SF映画に必要な要素がすべてちりばめられておりSF映画の原点にして頂点」と最高の評価を与えている。

ところがいざ作品を観ると込み入ったストーリーの構成や、サイレント時代作品ゆえの字幕から与えられる情報量、質の不十分さ、さらになじみの薄い宗教や寓話が何回も挿入されるためかなり混乱して理解できなかった。
当初はレンタルDVDを利用したが本作品を外部資料で追っていくうちにこのDVDに疑問が生じてきた。というのはDVD(英語字幕・日本語訳)の上映時間は1時間40分であるがインターネットから視聴できる本作品(ドイツ語字幕・日本語訳)の上映時間は2時間25分である。DVDは45分も短縮されている訳で内容把握が困難だった理由が分かって早速このインターネット版を鑑賞することにした。
これは本来のドイツ語版でありDVDで観ることが出来なかった部分を何か所も確認することができたため漸く全体の構成を理解出来るようになった。
フリッツ・ラング監督が作成した原版は大長編だったがアメリカ・パラマウント社を経由し、興行的理由でラング監督の許可なしでカットされ短縮したバージョンで公開された。またドイツもアメリカに追従して上映回数を増やす目的などでカットした。
その後の第二次大戦の混乱などで世界に散逸しオリジナルフィルムを観ることは不可能とされ作品の全容が今でも見れないという残念な背景がある。本作品の特長は、

1.先見能力・・・都市と人間社会の構造を予見
約100年も昔の製作であるが、未来の高度な都市構造が鮮やかに具象化されており、超高層ビルが林立し高速道路がめぐらされ車の群れが大量に移動し、空には飛行機が飛び交う未来都市メトロポリスが舞台となっている。
ここでは生産状況はコンピューターの画面から収集し大型の画面にはリアルタイムで生産状況や要求される数値の列が表示される。
生産設備は重厚で長大、巨大なシャフトやピストンが動き、歯車が回転し、人間の存在が霞むほどに圧倒的な存在感をみせている。
しかし100年後の世界はディストピア(ユートピアの対極)として描かれた。

2.後世に与えた影響・・・アンドロイド型ロボットの登場
労働者の階級闘争を弾圧する目的で資本家が発明家に命じロボットを造らせる。マリアという女性指導者の姿に造られたロボットが労働者を誤った方向に導き工場や都市を破壊しようとする。
このロボット製造過程の装置の作動がすさまじく電気とプラズマが飛び交うシーンは圧巻。マリアロボットは以後の世界のSF界に大きな影響を与えた。
今年1月31日の読売新聞・日曜版に日本の初期ロボットの解説があり田河水泡の日本初のロボット主人公漫画はマリアロボットの影響を受けたと紹介されている。
また手塚治虫の「鉄腕アトム」でアトムが誕生するときベッドに横たわっていたシーンは本作品のロボット誕生シーンと酷似している。
さらに手塚治虫の初期の作品に当時日本では存在しなかった高層ビル群を縫うように走る高速自動車道が登場しているが手塚氏はこの「メトロポリス」からイメージや形状を取り入れたものと推測される。
淀川長治氏はチャップリンの「モダンタイムズ(1936年)」の巨大な機械と単純労働の組み合わせは本作品の影響を受けているとし、近くは「スターウォーズ」のロボットたちも同じく影響を受けていると解説しておられる。

3.複雑な人間関係と社会構造
SF作品でありながら登場する人間関係は複雑に絡み合っている。資本家(フレーダーセン)と発明家(ロートヴァング)とは旧知の間ではあるが昔一人の女性(ヘル)を争った恋敵であった。フレーダーセンと女性は結婚し、その息子(フレーダー)は長じてこの物語の主人公を務めるがヘルは既に死去している。発明家ロートヴァングは今でもヘルを忘れ難く自分の研究所に大きな彼女のレプリカを飾っており、ロボットの作成もこのヘルを再現することが目的で、完成も近くなっているという状況である。
フレーダーセンがロートヴァングの研究所を訪れた際このレプリカに向かいヘルへの追慕と感謝の意を表するシーンがあるがこれを見たロートヴァングが掴みかからんばかりにフレーダーセンを制止する場面があり二人のわだかまりは治まっていないことがわかる。
一方社会は資本家と労働者が完全に分離し労働者は工場よりなお地下深くにまとめて住んでいるという重層社会、ディストピアとして描かれている。
同胞愛、家族愛、愛憎があり、これから述べる復讐、裏切りが宗教的寓話(バベルの塔、バビロン、七つの大罪)を絡ませながら、資本と労働の重層構造の対立、分断を大きな柱としており、それが和解・協調に向かうという複雑かつ雄大な構想で描かれている。
このためストーリーの推移は概略化せず作品の表現を出来るだけそのまま紹介しようとしたためこれまでの発表に比べて長くなることのご理解をいただきたいと考える。
ブロック別に推移を述べていくことでこの複雑なストーリーを分かり易く紹介したい。

4.「メトロポリス」のストーリー
●重層構造-労働者と資本家

冒頭のシーンが強い印象を与える。労働者群のシフト交代時間に就労するグループと退去するグループが同じ画面に描かれているが、エレベーターに乗りこむ労働者の群れと隣りのエレベーターから降りてくる労働者の群れは整然と並んでいるものの皆下を向き、陰鬱で無気力、人間の活力というものが全然感じられず、思わず画面に見入ってしまうほど強烈である。
就労する方の労働者の大群はあたかも潮の流れの如く黙々と移動しエレベーターに乗って地下の工場に降りていく。
程なく資本家側の生活が紹介され、若い男性たちは高層ビル屋上の広い運動場で陽光の下、運動にいそしみ、若い女性たちは華やかに着飾って戯れるというおよそ労働者側とは対極的に異なった姿で描かれている。
主人公の一人となる社長の息子フレーダーはこの裕福な男性群の一人であるがふと地上に現れた女性と労働者の子供たちらしい一団に遭遇する。間違って地上に現れたため係に注意されすぐ降りていこうとするが女性はフレーダーを指さし「あの方はあなたたちの兄弟ですよ」と子供たちに語りかけた。
フレーダーにはこの優雅で優しい女性と彼女が率いる一団が強く印象に残り自分とは異なる別の闇に隠れた世界があることを垣間見る。
この女性がもう一人の主人公となるマリアで、ファーストシーンでは子供たちを率いて世話をする優しい美しい女性として登場する。そして夜は地下室に集合した労働者たちに宗教を語り団結を促し聖女の如く、ある時は労働運動の指導者として労働者たちから女神とも尊敬され、慕われる存在で、この二人が物語の主人公となる。

●地下工場の爆発事故
優雅で贅沢な自分の暮らしとは異なる別の世界があることを知ったフレーダーはその世界を見るため地下の世界に初めて入っていく。
忍び込んだ地下世界で観たものは整った大規模生産設備の中で労働のみに明け暮れる労働者たちであった。そして一人の労働者のミスから工場に大きな爆発が発生し大災害に遭遇する。爆発によって人が吹き飛び高所から落下し、負傷者が運ばれるシーンがリアルに描かれる。
父に知らせるため急ぐフレーダーだがここで未来都市メトロポリスの超高層ビル、高速道と車の群、超高架鉄道を走る電車、飛び交う飛行機が描かれる。
その中でひと際高くそびえるのが資本家の総帥、フレーダーの父であるフレーダーセンがいる本社だ。社長室には壁一面の画面があり工場の生産状況を表わす数値が次々に表示されている。
父の下へ駆け寄り工場の事故を伝えるフレーダーだが冷徹な父は担当役員を責め事故を報告するのがなぜ我が子なのかと叱責する。
さらにフレーダーにも「機械室で何をしていたのか?」と質す、「人々の姿を見たかった、あれは私の兄弟なのです」とフレーダー。
「父さんの素晴らしい都市、あなたはここの頭脳であり、僕らはこの都市の光の中にいる。でも人々の手が父さんの都市を作っているのに彼らの居場所は地下深くだ。地下の人々がいつか父さんに反逆したらどうしますか?」とこの作品の主題である頭の資本家と手の労働者の媒介者が必要だという理念がおぼろげではあるが語られている。
工場長が訪れ、犠牲になった労働者のポケットから取ったという不審な文書を渡す。
フレーダーセンは冷酷にも事態はすべて担当役員の責任とし、即座に解雇を言い渡した。
解雇された役員は悲嘆の余り戸外に出て拳銃自殺を図ろうとするが心配して後を追ってきたフレーダーに間一髪で助けられ「君の力が必要だ」と言われ思い留まる。フレーダーはこの時何らかの行動を起こすであろうことを示唆している。この時助けられた男が最後までフレーダーを支えていくヨザファートである。
息子の言動に何かを感じた社長は部下に「今日から息子の行動を逐一報告するのだ」と命じた。
フレーダーはまた地下工場へ行く。作業中の男は疲れ果ててフレーダーに倒れ掛かる。「誰かが機械についてなければ」という工員に「僕が代わろう」とフレーダー、工員の衣服と交換し作業に着く。しかしそれはフレーダーにとっても重労働でついに音を上げるが屈強な工員が交代して助けてくれた。その男から「2時に集会を行うという彼女からの指令だ。シフトの後集まれ」と教えられた。交代の後地下の集会所へ向かう足取りも重い疲れた労働者の群れが続く。

●労働者を率いる聖女マリア
よろけながら一緒に階段を下り集会の場に着いたフレーダー。いくつもの高い十字架の下でロウソクの灯りに照らされた女性があの子供たちを率いていたマリアであることを知り驚くフレーダー。そしてひざまずく。
マリアは地下室を埋めるほど集合した労働者に静かに語りかける。「今日はバベルの塔建設の話をします。
『さあ、頂上が星にまで届く塔を建設しようではないか、そこに世界と創造者は偉大なり、そして人類は偉大なりと書くために・・・』しかしその仕事は余りに大きすぎたため、大勢の人が作業者として雇われましたが塔は完成しませんでした。作業者たちは塔建設立案者たちが描いた夢のことは何も知らなかったし、一方で立案者たちには現場作業者たちへの思いやりがなかったのです。『ある人たちの賛歌は他の人たちにとって呪いになった』のです。同じ言語を話しても互いの理解は出来ませんでした。」
マリアは言葉を結ぶ「頭脳と手、つまり知と技をつなぐ人「媒介者」が必要だったのです。それは心でなければなりません。」切々と訴えるマリアに疲れ切ってうなだれ、聞き入る労働者たち。一人がマリアに聞く。「我々の媒介者はどこにいるのですか?マリア」
マリアは答える。「辛抱しなさい、彼はきっと現れます」うなずきながら微笑むフレーダー。労働者「待ちます。でももう永くは待てません。」
会が終わり帰っていく労働者たち。ただ一人ひざまずいたまま残っているフレーダーの容貌、雰囲気に何かを感じたマリアは歩み寄り、「あなたは媒介者ですか?ついに来たのですか?」と訊ねる。「あなたに呼ばれたから来たのです」とフレーダー。二人の間に信愛の情が生まれた。「明日、大聖堂で会いましょう」とマリアはブレーダーに言い、幸せそうに別れを惜しむ二人。
注:この時のマリアの話はバベルの塔建設に費やした厖大な人員が作業する様子を再現しながら語られ、土木工事に携わるおびただしい人の群れ、巨石を古代のローラーで運び上げる数千人の重労働者の姿が映像化されている。

●資本家の陰謀-ロボット作製
資本家フレーダーセンは発明家ロートヴァングを訪ねた。ロートヴァングはメトロポリスの中央部に住まいと研究室を構えその知力にフレーダーセンは高い信頼をおいている。大きな一室にヘルという名の女性の見上げるような頭のレプリカが飾られている。その献辞には『人を幸福にするために生まれ、フレーダーセンに尽くし、息子フレーダーを生み亡くなった』と書かれていた。
像の下で回想に耽る社長フレーダーセンをロートヴァングは激しい言葉で遮り退出せよと迫る。「ロートヴァング、君の頭脳なら彼女を忘れられるよ。死んだ者は安らかにさせておこう。彼女は死んでしまった者だ」と社長フレーダーセン。
「いや俺にとって彼女は死んでいない、生きている」とロートヴァングは義手の右手を見せながら「ヘルの再生の為には手の喪失などは高い代償とは思わない。」という。そして「彼女を見たいか」と聞くロートヴァング。
ロートヴァングが案内した部屋には椅子に座った金属ロボットがいた。ロートヴァングが促すとロボットはゆっくりと立ち上がり歩み寄り手を差し出す・・・が一瞬たじろぐフレーダーセン。(注:ここでロボットが歩くシーンが素晴らしい。人間ともロボットともつかぬ緩慢だがしっかりした歩き方。名優ブリギッテ・ヘルム演じるマリアとの二役である)
「未来の労働者を創造するためなら手をなくす価値があると思わんか?あと24時間くれれば本物の人間と見分けのつかない機械を作って見せるよ。女は俺のものだ、お前にはヘルの息子がいるだろう」とロートヴァングはまくしたてる。
「ところで何の用だ?」とやっと本題に入ったロートヴァングにフレーダーセンは「君の助言が欲しい。私の専門家どもは当てにならない」と事故の労働者が持っていた地図を出し「最近労働者がこんな見取り図を持っているが何だろうか?この地図を判読できないか」と質す。ロートヴァング「古代の迫害避難所の見取り図だ。つまり今は地底の労働者の街だ」と答える。
「地底の何が彼らを引き付けるのだろう?」といぶかるフレーダーセンにロートヴァングは「では案内しよう」と懐中電灯を渡し二人で地下に向かい秘密の階段から降りていく。
フレーダーセンとロートヴァングの二人は地下の集会場が見える穴のある部屋に着く。そしてマリアが地下室で労働者たちに話したことを陰で聞いていた。
フレーダーセンは「ロートヴァング、あの女に似たロボットを作れ。彼らと彼女の間に分裂の種をまきたい。あの女への信仰を破壊させたい。あの女を監禁してる間にロボットを差し向けて彼女への労働者への信頼を失わせるのだ」と言いロートヴァングに握手を求めるがフレーダーセンはこの時息子フレーダーがマリアと一緒にいることに気付いていない。
ロートヴァングは「一人にしてくれフレーダーセン。帰り道は分かるだろう。」と先に一人で帰らせようとする。全く話す様子を見せないロートヴァングにフレーダーセンはやむなく一人で引き上げる。
しかしロートヴァングは彼がいなくなるや否や「愚か者め、お前はヘルから得た最後のものまでなくしてしまうのだ。お前の息子をな。」とつぶやく。彼はフレーダーセンの息子フレーダーがマリアと心を通わせているのを知っており社長の命令がそれを壊しヘルから受けた最後のものすなわち息子・フレーダーまでも失わせる・・・というすさまじい復讐劇を起こすことを暗示しているのである。

●捕えられロボットにされるマリア
満足感に満ちたマリアがロウソクを取って帰ろうとする。途中で待ち受けるロートヴァングが石を落としその音に驚くマリア。ロウソクだけを頼りに帰りを急ぐマリアに魔手が忍び寄る。ロートヴァングが照らす懐中電灯の先に見えるどくろや人骨。遂に姿を現すロートヴァング、逃げるマリア、どこまでもついてくる灯り、おののき階段を駆け上がるが幾つもの部屋の戸はどれも開かない。
ロートヴァングに追い詰められるマリア、「来るのだ。ロボットにお前の顔を与えそっくりのロボットを作るときが来た」、机を挟んで対峙する二人。天井の鉄柵にぶら下がり逃れようとするマリア、しかしついにロートヴァングにねじ伏せられる。
ベッドに横たわり頭に電気装置の配線を付けられた無意識のマリア、コイル状の大きな枠に入り、全身は密閉された透明のシリンダーに囲われている。後方にコードで接続され座った姿勢の金属ロボットがいる。体から幾本ものコードが取り出され装置を介してマリアの体の各部につながれている。
ロートヴァングが装置を確認しスイッチを入れると液体が沸騰、蒸気が溢れ、電光、プラズマが輪になって上下する。沸騰する液体、泡、電光、強烈なプラズマが乱れ飛び、ロボットの体を包むような輪が幾本も上昇下降する、ロートヴァングはさらに電圧を上げていく・・。
液体が沸騰し強烈なプラズマと輪の上下が一段と激しくなったあと遂に金属ロボットはマリアの顔を持った。実のマリアはベッドでがくりと首を垂れた。
ロートヴァングがロボットに言う「お前はフレーダーセンと奴の都市、そして息子を滅ぼすのだ」

●黙示録と七つの大罪
マリアと約束の大聖堂に来たフレーダー、マリアを探すが、彼女はいない。フレーダーは説教壇上に司祭を見る。司祭は説教する。「貴方がたに言う、黙示録が語る日は近い。」司祭の手は聖書を指しておりそこには次のように書かれている。「すると私は緋色の獣に乗る女を見た。獣は冒涜の名で満ち7つの頭と10本の角を持っていた。女は紫と緋色の衣を着て金の盃を持っていた。その額には『地の憎むべきもの大バビロン』」と書かれていた。そして私はこの女が聖人たちの血に酔っているのを見た。」
七つの大罪の像の前に来たフレーダー、七つの大罪「大食、貪欲、虚栄、色欲、妬み、怒り、怠惰」が記されそれぞれの像が立っている。フレーダーが呟く「お願いがある、僕と僕の恋人から遠ざかってくれ」と。・・・再び大聖堂へ、集会は終わるがマリアは来ない。

●ロボットが行動開始
⑴ マリアロボット(ロボットになったマリア)がフレーダーセンの所にやってくる。ロートヴァングがフレーダーセン宛に書いた手紙には「彼女は人類が手にした最も完全で最も従順な道具だ。今夜君は彼女が上流社会の人々の前でどんなふうにしているのかを見るだろう。彼女のダンスを見なさい。それが機械だと思うものが一人でもいれば私は自分を何の取り柄もないただの職人とでも呼ぶよ。・・・ロートヴァングより」とあった。
フレーダーセンがマリアロボットに言う「地下に降りてお前の原型となった女の仕事を破壊してくるのだ」・・・左目をウインクのように閉じ艶然と微笑み肯くマリアロボット。その肩を抱き寄せるフレーダーセン。
大聖堂でマリアに会えなかったフレーダーが正にその場に帰ってきた。マリアを見て駆け寄るフレーダーだがフレーダ-センと手を取り合った二人の親密そうな姿を見て驚き動けない。
振り向いてフレーダーを見る二人、動転して目を覆いよろめき、頭をかきむしるフレーダー、「マリア」と叫びながら膝から崩れ落ちる。今見たばかりのマリアの顔がぐるぐる回って、フレーダーは我を失って奈落の底に落ちていく。
・・・ベッドに横たわりうなされるフレーダー、医師が体温計を見て父フレーダセンに良くないと合図する。何も知らない父は心配そうにフレーダーを見て去る。
やっと目を覚ましたフレーダーが枕元で手に触れた紙を見るとロートヴァングがフレーダーセンを上流社会のパーティーの主催者に紹介する手紙だった。

⑵ 上流社会のパーティー会場である。身なりのいい男ばかりが集う。そこへ登場するマリアロボットを載せた大きな台座、裸の男数人に支えられている。
蓋が緩やかに開く、湯気とともに頭飾りを付けたマリアロボットの半裸の姿が浮き上がる。セクシーに腰をひねるマリアロボットの舞台に固唾をのむ男たち。マリアロボットは体をくねらせ台上で踊る、乳房もあらわ、腰をふり、男たちが凝視する、眼、眼、眼・・・しゃがみ両脚を開くマリア。
マリアロボットが担がれている台は経典の大バビロンそのままの10頭の怪獣に支えられている。その台へ駆け寄る男たち。
▼この間病室のフレーダーが妄想に苦しむ姿が小刻みに挿入される。
病室で看護師に見守られるフレーダー、看護師が去り、司祭が立ち、フレーダーに向かって叫ぶ。「まことに汝らに告ぐ。黙示録が語る日は近い」
うなされるフレーダー、経典を広げて見せる絵は大バビロン、「七つの大罪はみな彼女のために」となっていた。
七つの大罪を象徴している7人の像が皆歩き始め、耳をふさぎ逃れようとするフレーダーに大罪の化身が近づき大鎌を振り回す。「死が都市を覆っている」とうめくフレーダー。ヨハネの黙示録を手にする。

⑶ 数日後、ヨザファートが訪れる。フレーダーは既にベッドから出ていた。
ヨザファートが言う「この10日間都市が危険な状態になっている。奇妙なことが起こったんだ。あなたが病気になったあの夜に、私の親友だった男があの女のために決闘で死に、別の男もあの夜に拳銃自殺した。永遠の園は荒れ果てている・・・」と。
歓楽街だけは夜毎に賑わっていた。黒いドレスで踊るマリアロボット、駆け寄る男たち、一隅で激しい喧嘩が始まり、抜いた拳銃で相手を殺す男・・・。
ヨザファートが「あらゆる罪があの女に付きまとっている、マリアという名の女に」と言う。
「地下で聖女と仰ぎみられているあの人がか?」と驚くフレーダーだが、「黄金のように純真だと思った女を求めて多くのものがこれから死の街に行くだろうが、媒介者はあるいはそこにいるかもしれぬ」と希望をも捨てないフレーダー。
この間、フレーダーセンは部下に「今夜何が起こっても労働者に好きなようにさせておけ、これは私の命令だ。」と命ずる。
▼一方ロートヴァングは監禁している本マリアに「フレーダーセンは地下住民が暴力をふるうことで悪者に仕立て上げ、彼らに暴力をふるう権利を得ようとしている」と話す。それを聞き胸をかきむしる本マリア。
さらに本マリアに「お前が哀れな兄弟たちに話してきたのは平和だった。だがマリア、今日フレーダーセンの命令で暴動が起きるだろう。ロボットは媒介者への信頼を破壊するだろう」と言う。

⑷ ろうそくと十字架の前で労働者に向かって話すマリアロボット、くねくねと動き手を差し伸べるマリアロボットににじり寄る労働者たち。
「ご存じの通り私はいつも平和を説いてきました。でもあなたたちの媒介者は現れません」労働者たちは形相すさまじくマリアの言葉に聞き入る。
「十分待ったわ、あなたたちの時がやっと来たのよ」
再びマリアロボット「メトロポリスの生きた燃料になるのはだれ?」「機械の連結部に自分の骨の髄で油をさすのはだれ?」と問う。「俺だ・・」と興奮する労働者たち。
「自分の肉で機械にえさを与えるのはだれ?」とマリアロボット、「俺だ、俺だ・・」と叫びさらに興奮する労働者たち。
「機械を飢えさせるのよ。機械を壊すのよ、機械を殺すのよ」マリアロボットの言葉に湧き上がる労働者たち、雪崩のように動き出す。
▼並行してロートヴァングが本マリアに言う言葉が挿入される「だが私はフレーダーセンを裏切った。お前のレプリカは彼ではなく私の意志のみに従うのだ」と言う。つまり彼はフレーダーセンへの復讐のために彼を裏切るという復讐劇を仕組んでいたのである。

⑸ フレーダーはロボットの正体を見抜いたが
フレーダーとヨザファートの二人がやっと集会場に着いた。扇動するマリアロボットと自制心を失った労働者を見て驚き、絶望する。
だがマリアロボットを指さしてフレーダーが叫ぶ「お前はマリアではない」、一瞬戸惑い、動揺し、顔を見合わせる労働者たち、「マリアが説いてきたのは平和だ、死ではないぞ」・・とフレーダー、黒一色の労働者群の中で白い服はフレーダーただ一人である。
「これはマリアではない」、一方それをせせら笑うマリアロボット。
労働者の一人がフレーダーを指さし、「社長フレーダーセンの息子だ。奴を殺せ。あの白い絹の皮の犬を」・・・フレーダーに襲い掛かる労働者たち、フレーダー、ヨザファートも負けじと殴り返す、フレーダーを庇おうと前に立ちはだかった男がナイフで刺される。
「妻や息子を労働者の街から連れ出せ」・・と一人が叫ぶ。しかしマリアロボットが「戻ってはならない、機械に死を与えよ!」と両手を広げ扇動する。労働者たちはマリアロボットを肩に抱き上げ全員で移動する。身を捨ててフレーダーをかばった男はフレーダーの腕の中で息を引き取った。

▼≪以下数分は映像がなく字幕だけで表示される。重要な部分であるがフィルム喪失ではないかと予測。重要箇所の為字幕をそのまま引用する。≫
≪引用始め≫
ロートヴァングは屋根裏部屋でフレーダーセンに対する自らの勝利に酔いしれてマリアに向かって感情を高ぶらせる。「俺はフレーダーセンを二重に裏切った。奴の息子がお前たちの媒介者になりたいという事、そしてお前を愛していることを隠していたのだからな」
ロートヴァンクの言葉を聞いていたのはマリアだけではない。フレーダーセンがそれを聞いていた。フレーダーセンは屋根裏部屋のロートヴァンクの部屋へ押し入る。彼らは格闘しフレーダーセンがロートヴァングを倒す。本マリアは解放される。
≪引用終り≫

●ロボットに扇動され工場とメトロポリスの破壊を始める労働者たち
⑴ 工場広場には大勢の労働者の男女がマリアロボットをめがけて走り寄ってくる。その様子を得意げに眺めているマリアロボット。何人かの男がこぶしを突き上げシュプレヒコールを行うとこぶしを振り上げて全員が呼応する。
満足げにその姿を見まわすマリアロボット、「女も男も欠けるものがいてはならない、機械に死を!」労働者たちの群れをかき分けて走るマリア、続く男女労働者たち、それが群れとなって広い階段を駆け上がり中央機械工場に向かう、手をあげて指揮するマリアロボット、エレベーターに着く、エレベーターでひしめく男女の労働者たち。
工場に至る門の鉄柵に到着、「登れ、壊せ」とアジるマリアロボット、エレベーターに乗ろうとするもの、手をかけるもの、押し寄せるもので大混乱、上るエレベーター、下るエレベーター、鉄柵をハンマーで壊そうとする者たち、最早破壊集団と化していた。
「男も女も後戻りしてはならない」女性労働者が叫ぶ。遂に鉄柵も壊され隙間から労働者たちが抜け出し走り去っていく。

⑵ 破壊され開いた鉄柵からマリアロボットがすり抜けて走り出す、みなこれに続き工場の中枢部へなだれ込む、ここはまだ多数の工員が通常の作業をしている最中だが、マリアロボットは彼らに「機械から離れて死ぬまで荒れ狂わせましょう」と叫ぶ。作業は中断する。「機械の心臓部へ」とマリアロボットの扇動。

⑶ 中枢部では一人工場長が計器を見ながら監督しているが突如「“危険”」の表示が出る、急ぎ緊急隔壁を閉じて防御する工場長、大隔壁が閉じる、「何事か?」と計器類のある監督室でイライラする工場長。

⑷ 社長フレーダーセンが管理棟の表示板に来る。画面に表示されたのは工場の異常事態である。隔壁の閉鎖も見える。画面をいくつか切り替えると工場管理室の映像が出てイラつく工場長の映像が見える、・・電話を取り上げ画面の工場長に向かって命ずるフレーダセン、「門を開けろ、門を開けるのだ」
工場長が言い返す「心臓機械が破壊されたら、機械地区はすべて破壊されます」癇癪を起こして電話を切る社長、怒って隔壁開放レバーをけ飛ばして隔壁を開ける工場長、隔壁が開く。

⑸ 開いた隔壁門からなだれ込む労働者たち、階段を下って押し寄せる労働者に工場長が棍棒を振り上げ静止する「気でも違ったか?」「心臓機械が壊れれば労働者街が水浸しになるぞ」しかし群衆はマリアロボットと共に熱狂して押し寄せる。工場長に襲いかかる労働者たち。
マリアロボットが中枢機械のスイッチを入れる、炎とプラズマが機械を包む、それを見て歓喜する男女労働者たち、すさまじい火力破壊が始まり水が噴き出す、天井から装置が落下する。
何機も目の前で落下、破壊するエレベーター、フレーダー、ヨザファートの二人もエレベーター破壊を見る、遂に床が割れ水が噴き出す、次々に落下するエレベーター。

●都市機能が破壊されたメトロポリス
水路から水煙が上がり水管理システムの破壊を表わし労働者たちが狂喜乱舞する。プラズマは一層強くなり、遂に工場内が崩壊し始め上方から重量物が次々に落下を始める、エレベーターも落下し驚く本マリア。エレベーター落下に続き床から水が漏れ始めついに噴き上がる。
中枢部での破壊活動は膨大な水の貯水と管理を不能にしただけでなく動力の中心を破壊停止したためメトロポリスの街のすべてから明かりが消えた。
 メトロポリスの高層ビル、高速道路が現れ走行する車両、電車等、目もくらむような都市の照明も明るさも消える。

●子供たちの救助
ビル屋上から出水し急速に広がる水、本マリアは階段を下りながら水に追われる子供を発見し抱えだし広場中央の高台作業場に逃げる。レバーシャフトを必死に動かし洪水を阻止しようとするが重くて動かない、子供は水から逃げてどんどん集まってくる、
高台の近くでも水が吹き上げ浸水、逃げ惑いつつ高台に段々集まる子供たち、
建物も水圧に耐えられず破壊されるものが出て来た。子供たちは水の恐怖におびえている。無数の子供たちが集まり手を差し伸べマリアに助けを求める、本マリア「あなた方のお父さん、お母さんはどこ?」
やっと上部の水管にたどり着いたフレーダー、ヨザファートの二人、そこから見えたのは浸水する広場の大勢の子供たち、高台場へ逃げようと押し寄せる子供たち。益々増水する広場へやっと降りた二人は高台場へ行く。
浸水を止めようと必死のマリアだがどうにもならず、高い場所を求めて押し合いへし合いする子供たち、やっとたどり着いたフレーダーにマリアはひしとしがみつく。フレーダー「君か、マリア」。ヨザファートの声「通気坑へ早く早く、貯水タンクが爆発した、街が水浸しになる」方向転換する子供たち、ヨザファートもフレーダーも子供を抱えて走る、大量の噴水、どこも水浸しの中を腰まで水に浸かりながら移動して走る。やっと上方へ行く階段を見つけて上る、子どもの胸に届くような水位の中を移動する。
子供を抱いて階段を上るマリアとフレーダー、手で合図をしながら子供を階段へ誘導するヨザファート。
階段の最上部に着くと外への出口に鉄柵あり子供が下から押し上げられるように上がってくる。
下にいた男二人は階段が子供であふれ動けないため壁の鉄柱の支え部を登って上方に移動し活路を求めようとする。やっと最上部につき鉄柵を壊そうとするフレーダー。
水は勢いを増しあらゆる建物を壊しながら溢れ噴出していく。二人がかりでやっとこじ開けた出口から子供たちが外へ脱出する。
空いた出口へ向かってどんどん上方へ移動する子供たち、フレーダーはビル支柱を伝って下がる。最下部で水浸しになっている子供を抱き上げ階段へ移動、そして最後にいる疲れ切ったマリアをかかえて階段を登るフレーダー。
刻一刻建物が水で破壊される様子、最上部へマリアを連れて移動したフレーダーをヨザファートが支える。待っていた子供たちを抱きしめるマリア。
「子供たちを御曹子クラブへ連れて行こう」とフレーダー、うなずくヨザファートとマリア。やっと助かった子供たち。
マリアが周りを見て「何故どこにも明かりがないの?」と不審がる。-都市機能の喪失をマリアは知らなかった。

●「子供たちはどこに?」我に返る労働者たち
再び歓喜の中でダンスする男女労働者たちの輪。工場長が大階段の労働者群を見る。工場長はただ一人その群れを制止しようと躍起になる。強烈な口笛の合図に漸く我に返って工場長に歩み寄る労働者たち。工員たちが工場長が立っている足元ににじり寄る。工場長「君たちの子供はどこだ」、・・・にわかに不安を感じ始める男女の労働者たち。
工場長「町は水浸しだ、通気坑には限界まで水が入っている」。取り乱す労働者たち、「機械を壊せと君たちに言ったのは誰だ?機械がなければ君たちはみんな死んでしまうのだぞ」現実に返り身もだえしていた彼らが「あの魔女のせいだ!」・・と工場長の問に答える労働者たち。
「魔女を探せ」「すべて彼女のせいだ、彼女を殺せ」大勢の労働者たちが工場長を先頭に動き始める。
工場内を走り回る労働者たち、工場内の自動車群の中を動く労働者たち。
工場長「俺たちの子供はどこだ」。

●再び本マリアの危機
係に世話されて御曹子クラブへ入る子供たち、本マリアもいる。
やっと子供たちを収容しクラブの入り口で疲れ果てもたれかかる本マリア。
血眼で探し回る工場長と労働者の一団、何事かと手すりから顔を出すマリア、
疲れ果てた本マリアを工場長をはじめとする一群が見つけ「魔女だ、魔女だ、ここにいるぞ」と工場長が指さす。親愛の情で手を差し伸べるマリアに殺気立った一団が押し寄せる。
本マリアは仕方なくクラブに入ろうとするが戸が開かない。やむなく一団と逆方向に逃げるマリア。
階段を走り下りて逃げるマリア、フレーダー、ヨザファートが気付いて追う、「魔女を火刑にせよ、火刑台に連れていけ」、逃げる本マリア、物が投げられる。
階段を駆け下り、広い通路を逃げる本マリア、やっとフレーダー、ヨザファートの二人が危険を察したが、怒涛のように走り回る労働者たち、そこに肩車されたマリアロボットとその一団が明かりをかざして踊りながらやってくる、華美のマリアロボットの一団と間違って本マリアを追いつめる労働者たちの群れが出くわした。
工場長の一団は華美な一団の中のマリアロボットを発見し手荒く捕まえる。

●マリアロボットの最後
工場長「この女を火刑にしろ!」、フレーダー、ヨザファートの二人階段で双方に分かれる。破壊された機械の上で火刑台を作る労働者たち、マリアロボットが工場長に荒々しく引きずられて、火刑台に引き上げられる、縛られたマリアロボットを前にアジる工場長、しかしマリアロボットは笑っている。火がつけられ段々燃え上がっていく、大勢の労働者たちがその光景を見て歓喜する。
フレーダーはマリアロボットと気付かず火刑台のマリアロボットを助けようとするが大勢に阻まれて進めない。労働者たちの押さえつけを振り払おうとするフレーダー。
一方、火刑台は炎が逆巻きマリアロボットを襲う、狂気のように笑うマリア・・・。
ここで火にいぶされていたマリアロボットに変化が、・・・マリアロボットは煙の中から本来の金属のロボットに姿を変える、驚く労働者たちとフレーダー。

●ロートヴァングが本マリアを襲う
身を起こすロートヴァング、ヘルの巨大モニュメントに向かい「さあ、お前を家に連れて行くぞ、私のヘル」
やっと労働者の一団から逃れた本マリアだがロートヴァングに追われている。
「君が暴徒に見つかれば細工がばれて私は殺される」とロートヴァング、彼は自分の身を守るため本マリアが邪魔になったのだ。
本マリアに「ヘル、私のヘル」と叫び追う。最早狂気のロートヴァング。
さまようロートヴァング、労働者たちの群れを見て隠れる。そこに労働者たちから逃げてきた本マリアがいた。本マリアを追うロートヴァング。
階段の最上階に逃げるが追い詰められた本マリア、遂に捉えられるが激しく抵抗し階段から手を伸ばし触った大天井の釣り鐘の綱に手をかける。鐘の綱にぶら下がり揺れる本マリア、歓喜の労働者たちは鐘の音を聴き上方を見上げる。そこに揺られ振り回されているのは本マリアだ。驚く労働者たち、フレーダーもやっと本マリアの所在を知る。再び綱を手繰り寄せられロートヴァングに捕まったマリアは階段から逃げる。

●本マリアの救出
ロートヴァングに追われている本マリアを見つけ真っ先に本マリアに向かって走り出すフレーダー、大門から走り込む。大階段の踊り場で遂にロートヴァングに捕まった本マリア、激しく抵抗する本マリアにフレーダーが近づく。
フレーダー、ロートヴァングの1対1の階段上の戦いへ。慄きながら下から戦いを見上げる労働者たち、そしてフレーダーセン。
階段で組み合うロートヴァングとフレーダー、馬乗りになり振りほどく、ひざまずき頭を抱え込む社長フレーダーセン、労働者たち男女は上を見上げて右往左往するばかり。
激しい一撃を喰らったフレーダー、倒れ込みしばらく起き上がれない。やっと起き上がるとロートヴァングがマリアを背中に抱えて屋根の階段を上っている。後を追うフレーダー、気付いたロートヴァングがマリアを落とす、マリアは屋根を滑り落ちそうになるがかろうじて鉄柵にしがみつきぶら下がる。二人が細い尾根の上で格闘、群衆はただ上を見上げて騒ぎフレーダーセンはひざまずき息子の無事を祈るのみ。そのまま屋根を滑り落ちて下の階段迄転げ落ちる二人、ロートヴァングは手すりになっていた像が壊れて落下、絶命した。

●大団円-終章
ヨザファートがいう「君たちの子供は救われたぞ」、工場長はこれを聞き一瞬耳を疑うが理解して周りの労働者たちに大声で喜びを告げる。歓喜する労働者たち、抱き合い、母親たちはひざまずいたり座り込んだり、倒れ込む者も。
フレーダーセンは祈るように上方を見つめる。
駆け付ける群衆に残されひざまずいたままの社長フレーダーセンとヨザファート。やっと支えられて立ち上がったフレーダーセンは真直ぐに息子フレーダーのところへ走る。上ではフレーダー、マリアの二人がひしと抱き合っていた。
広い階段の上に広場への出口が写る、工場長を先頭に労働者の群れがゆっくり階段に向かい、上る。階段の最上階に差し掛かると入り口から社長、フレーダー、マリアの三人が現れる。労働者たちを両手で制し一人向かい合う工場長。
社長が一歩前に出ると工場長も歩を進めるが戸惑いながら手を差し出してはきまり悪そうにひっこめる工場長、だが顔には笑みが・・二人はまた手を差し出すがまたひっこめるというぎこちなさ。
マリアがその様子を見てフレーダーに話しかける、ここで字幕、マリア「頭脳と手は合体する事を望みます。でもそこには心が必要です」、うなずいて微笑みながら父にそっと話しかける息子フレーダー。
フレーダーは左手に父の右手を持ち、工場長に手を差し伸べる、戸惑うが工場長は引かれた右手を差し出し社長に近づき握手する、再び字幕「頭脳と手の媒介者は心でなければならない」

5.監督「フリッツ・ラング」のその後
本作品の脚本を担当したのはフリッツ・ラング監督の妻:ティア・フォン・ハルボウである。妻との共作でこの名作を成した。しかし妻はその後ナチへ傾倒しユダヤ人の母を持つフリッツ・ラングは離婚することになる。身の危険を感じその後フランスへ出国、1933年アメリカへ亡命した。亡命後も制作の意欲を持続し彼ならではの約20作の米国作品を世に送り出していった。「暗黒街の弾痕」(1937年)、「飾り窓の女」(1944年)、「外套と短剣」(1946年)などがある。
「暗黒街の弾痕」はアメリカ映画のニューシネマ「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン監督、1967年)と同じテーマを描いているがフリッツ・ラングが勝っているとの評もある。
「飾り窓の女」は数十年も前に1度しか見ていない映画だが強烈な印象あり。
男がショ-ウインドウの中の女性の絵を見ているところから始まるが次々と悲運に見舞われていき、最後ついに死を覚悟し観客もともにどん底の悲哀を感じたところで大どんでん返し、思わずうなる場面作りはこの監督の作品だったかと今更ながら感服している。最晩年には再びドイツでの監督作品を送り出した。

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