皆さん、こんにちは。
私は、今移転問題で揺れる東京・築地で、小さな出版社を営んでいます。発行している雑誌は、主にケーブルテレビや衛星多チャンネル放送など、放送・映像メディアを中心とした最新の話題や業界データなどをまとめた専門情報誌で、この世界に関わるようになって約30年が経ちました。
シニアの皆様へのメッセージということで、今回のコラムへの寄稿をお引き受けしましたが、さて「シニア世代」と呼ばれるのは一体何歳からなのでしょうか。私自身、今年の12月で60歳となるため、すでにシニア世代の仲間入りをしている気がしますが…。
調べてみますと、その明確な基準はどうもなさそうです。というより「曖昧」になってきているとか。WHO(世界保健機関)では65歳以上を「高齢者」と定義づけているものの、シニア世代の括りはないようです。諸説色々とあるにせよ、ここでシニア世代について深堀りしていると、その先へ進めなくなってしまいますので、私自身がこれまで多くの影響を受け、お世話になった諸先輩方に思いを馳せながらコラムを書かせていただきたいと思います。
■仕事は結婚までの「腰掛け」じゃない
私が社会人となって、入社式を終えた後、すぐに「新入女子社員研修」が行われました。その時に教育担当だった人事部の方は、結婚されていて、まだお子さんも小さく、子育て真っ最中の女性でした。入社式での社長挨拶に「女子社員の皆さん、早く社内外で良い伴侶を見つけて寿退社(結婚退職)を目指してください」というくだりがあり、私はその言葉に言いようのない驚きを感じていたこともあったので「この会社には結婚してお子さんもいて、こうして働き続けている女性もいるんだ」と少し安心したことを覚えています。
当時(1970年代)のOLは、仕事は結婚するまでの「腰掛け」(今では死語ですが)という人も多く、結婚退職が女子社員のステータスになっていた時代でもありました。
そのような背景の中、新人教育担当としてめぐりあったこの先輩との数々の思い出が、現在の私を「形成」する第一歩だったような気がします。彼女は、私が入社して1年も経たないうちに、保育士になる夢を叶えるため退職しました。その後、保育士としての経験を積むと、次は「理想の幼稚園を作る」という目標を掲げ、現在はその目標通りご自分で作られた幼稚園の園長先生として、今なお現役で活躍されています。
彼女の物の考え方、そして生き様は、まだ20代だった私にとって、非常に刺激的であり、物事をもっと自由に発想し、自由に自分の意見を言うことの大切さを教えていただいた気がします。
■巡り会った「井戸を掘ってきた先人たち」
そんな私も入社から8年ほどで最初の会社を退職しました。当時の女性の転職はなかなか難しく、暗黙の年齢制限のようなものもあり、特にこれといった特技や資格もないまま退職した私にとって、再就職への道はとてつもなく遠く感じられました。
しかし、幸運にも新しく立ち上げるための準備をしていた専門出版社から声がかかり、誘われるがまま入社しました。ここから現在に至るまで、ずっと雑誌作りの世界に身を置くことになりました。編集に対する専門知識も何もないまま飛び込んでしまいましたが、まわりの先輩たちに助けられながら少しずつ成長することができたように思います。
世の中はニューメディアだ、マルチメディアだ、高度情報化時代だと言われ、私にとって雑誌で扱うこの業界はとても無機質で、どこにも自分の寄って立つテーマがないように感じていました。当時は放送と通信はまだ越えることのできない高い垣根がある時代でしたし、ケーブルテレビもようやく「都市型」と呼ばれる事業者がポツポツと現れ始めた頃でした。
しかし、この世界にはたくさんの「井戸を掘ってきた先人たち」がいらしたのです。無機質どころかなんと人間臭いのか、そしてなんと地域に対する思いが深いのか…。取材を通して直接見聞きしたこの業界には、苦労を厭わないそんな方々がたくさんおられました。実践を通して語られた多くの言葉に、今も学ばせていただくことが数多くあります。
■バトンを渡して、また受け取ろう
しかし、ふと見渡すと、なかなか世代交代が進んでいないような気がして少し焦りの気持ちが生まれてくることがあります。人材が育っていかないのか、育てられないのか、それぞれの理由があると思いますが、強烈なリーダーシップを持って牽引してきた人たちにとって、「バトンタッチのタイミング」ほど難しいものはないのではないかと思ったりもします。
誰もがみな最初は新人であり、そこから多くの人々とのコミュニケーションを通して、苦労や努力といった経験を経て、次の世代の人々にその想いやノウハウを伝授しつつバトンタッチしていく…。シニア世代がまた新たな次のステップに進むためにも、後に続く者たちが、そのバトンをきちんと受け取ることができるようにしていかなければならないのではないでしょうか。
受け取ったバトンが、形を変えてもう一度シニア世代へ戻ってくる…そんな循環を作ることができたら、人は自分の持てる能力を死ぬまで発揮し続けることができるのではないかと思うのです。
そのためにも「先人たちは同じ場所に留まっていてはいけない」のではないかと思うのです。また新しいバトンを受け取るために…。