この映画評シリーズの第1回は「タイトル邦訳の傑作」だった。その後7回まで掲載させていただき有難く思う。回を進めるにつれまたまた邦題の傑作に多数巡り会い新しい発見がいくつもあった。その傑作を集めて「アメリカ映画タイトル邦訳の傑作-その2」として今回投稿したいと考える。
第一回で既に掲載した分を≪第1表≫としてまとめたのでご覧いただきたい。今回の「・・・その2」は≪第2表≫と≪第3表≫に新しくリストアップし更に個別に書評を加えたのでお読みいただければ幸いである。
≪第1表≫本稿第1回で紹介した邦題の傑作
邦題 | 原題(原題の直訳) | 製年 | 監督:俳優 | |||||
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1 | 邦題 | 翼よあれが巴里の灯だ | 原題(原題の直訳) | The Spirit of St. Louis (セントルイス魂) |
製年 | 1957 | 監督:俳優 | ビリー・ワイルダー:ジェームズ・スチュアート |
2 | 邦題 | 俺たちに明日はない | 原題(原題の直訳) | Bonny and Clyde (ボニーとクライド) |
製年 | 1967 | 監督:俳優 | アーサー・ペン:フェイ・ダナウェイ |
3 | 邦題 | 明日に向かって撃て | 原題(原題の直訳) | Butch Cassidy and the Sundance Kid (ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド) |
製年 | 1969 | 監督:俳優 | ジョージ・ロイ・ヒル:ポール・ニューマン |
4 | 邦題 | 決断の3時10分 | 原題(原題の直訳) | 3:10 To Yuma (3時10分発 ユマ行き) |
製年 | 1957 | 監督:俳優 | デルマー・デービス:グレンフォード |
5 | 邦題 | 雨の朝パリに死す | 原題(原題の直訳) | The Last Time I Saw Paris (最後にパリを見た時) |
製年 | 1954 | 監督:俳優 | リチャード・ブルックス:エリザベス・テーラー |
6 | 邦題 | 駅馬車 | 原題(原題の直訳) | Stagecoach (淀川長治氏が作った新語-駅馬車) |
製年 | 1939 | 監督:俳優 | ジョン・フォード:ジョン・ウェイン |
≪第2表≫今回紹介する邦題の傑作集
邦題 | 原題(原題の直訳) | 製年 | 監督:俳優 | |||||
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1 | 邦題 | 日本人の勲章 | 原題(原題の直訳) | Bad Day at Black Lock (ブラックロックの厄日) |
製年 | 1955 | 監督:俳優 | ジョン・スタージェス:スペンサー・トレーシー |
2 | 邦題 | 手錠のままの脱獄 | 原題(原題の直訳) | The Defiant Ones (挑戦的な奴ら) |
製年 | 1958 | 監督:俳優 | スタンリー・クレイマー:トニー・カーチス |
3 | 邦題 | コレヒドール戦記 | 原題(原題の直訳) | They Were Expendable (彼らは消耗品だ) |
製年 | 1945 | 監督:俳優 | ジョン・フォード、ジョン・ウェイン |
4 | 邦題 | 炎の人ゴッホ | 原題(原題の直訳) | Lust for Life (生への渇望) |
製年 | 1956 | 監督:俳優 | ヴィンセント・ミネリ:カーク・ダグラス、アンソニー・クイン |
5 | 邦題 | 子鹿物語 | 原題(原題の直訳) | The Yearling (1歳児) |
製年 | 1946 | 監督:俳優 | クローレンス・ブラウン:グレゴリー・ペック |
6 | 邦題 | 現金に体を張れ | 原題(原題の直訳) | The Killing (一獲千金) |
製年 | 1956 | 監督:俳優 | スタンリー・キューブリック:スターリング・ヘイドン |
7 | 邦題 | 招かれざる客 | 原題(原題の直訳) | Guess Who’s Coming to Dinner (夕食に誰が来るか考えてごらん) |
製年 | 1967 | 監督:俳優 | スタンリー・クレイマー:キャサリン・ヘップバーン |
- 日本人の勲章:
この傑作邦題決めの大胆なところは日本人の観客にだけ興味を与えることに徹したことである。日本人は一人も登場しないが第2次大戦ヨーロッパ戦線で自らを犠牲にして戦友を助けた日系二世兵士に与えられた勲章が映画のキーファクターである。監督はこの後「大脱走」、「OK牧場の決闘」、ほかアメリカ映画の一時代を画したジョン・スタージェス。作品はアカデミー賞にノミネートされるほどの評価を得、日本でヒットした。 - 手錠のままの脱獄:
公開後60年経った今でも鮮烈な印象を与える超訳邦題の傑作の一つ。この邦訳のインパクトで映画はヒットした。このストーリーは後に日本映画で「網走番外地」というタイトルで模倣される。低予算の添え物映画だったが大ヒットし高倉健が大ブレークし新天地を開く基になった。 - コレヒドール戦記:
ジョン・フォード監督は従軍し戦場撮影を行っていた。映画は日本軍最強期のフィリピンが舞台で劣勢の米軍は原題のとおり“消耗品”と思われてもやむない時期である。戦後は戦地名を入れた実録戦記物が関心を呼びこの作品もコレヒドールの名を冠し注目を浴びた。 - 炎の人ゴッホ:
この超訳邦題もまたインパクトの強さでは類を見ない。原作は1934年の小説「炎の生涯 ファン・ゴッホ物語」なので邦題の名付けには背景を周到に調べ研究した跡を感じ当時の邦題を決定する映画人たちの苦心と情熱をうかがい知ることが出来る。アカデミー賞3部門にノミネートされた話題作でゴッホのライバル画家ゴーギャンを演じたアンソニー・クインが助演男優賞を獲得した。 - 子鹿物語:
アメリカ開拓時代のフロリダに生きる一家の物語。優しい心の少年がかわいがっていた子鹿が成長すると作物を食い荒らすようになり苦渋の決断で子鹿を殺してしまうが耐えられず家出して危険な旅に出る。自然の摂理を学び大人になっていく姿を描く児童文学である。邦題は少年や動物への愛情が感じられる名訳である。 - 現金(げんなま)に体を張れ:
原題の killing は殺人の意味であるが狩猟で仕留めた獲物や大もうけの意味も持つ。競馬の大レースに集まる大金を周到な計画でエキスパートがそれぞれの役割を分担してかっさらうという大胆な犯行が行われ、個々の役割に体を張って実行する集団行動を見事に捉えて名付けられた邦題である。スタンリー・キュ-ブリック初期の作品だがスピーディーで隙のない構成は彼の名を一躍高めた。 - 招かれざる客:
婉曲な表現の原題を端的に表示して邦題が付けられた。社会派監督スタンリー・クレイマーの名作にふさわしいタイトルである。アカデミー賞10部門にノミネートされ主演女優賞(キャサリン・ヘップバーン)、脚本賞を獲得した名作。名優スペンサー・トレーシーの遺作となった。
≪第3表:シリーズもの≫
邦題 | 原題(原題の直訳) | 製年 | 監督:俳優 | |||||
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1 | 邦題 | ダーティーハリー | 原題(原題の直訳) | Dirty Harry (ダーティーハリー) |
製年 | 1971 | 監督:俳優 | ドン・シーゲル:クリント・イーストウッド |
2 | 邦題 | ダーティーハリー2 | 原題(原題の直訳) | Magnum Force (マグナムの威力) |
製年 | 1973 | 監督:俳優 | テッド・ポスト:クリント・イーストウッド |
3 | 邦題 | ダーティーハリー3 | 原題(原題の直訳) | The Enforcer (執行者) |
製年 | 1976 | 監督:俳優 | ジェームズ・ファーゴ:クリント・イーストウッド |
4 | 邦題 | ダーティーハリー4 | 原題(原題の直訳) | Sudden Impact (不意の一撃) |
製年 | 1983 | 監督:俳優 | クリント・イーストウッド監督・主演 |
5 | 邦題 | ダーティーハリー5 | 原題(原題の直訳) | The Dead Pool (死のプール) |
製年 | 1988 | 監督:俳優 | バディ・ヴァン・ホーン:クリント・イーストウッド |
6 | 邦題 | 勇気ある追跡 | 原題(原題の直訳) | True Grit (真の勇者) |
製年 | 1969 | 監督:俳優 | ジョン・ウェイン |
7 | 邦題 | オレゴン魂 | 原題(原題の直訳) | Rooster Cogburn (ルースター・コグバーン-主人公の名前) |
製年 | 1975 | 監督:俳優 | ジョン・ウェイン |
1.~5. ダーティーハリー:
表のようにダーティーハリーシリーズ全5作品にはそれぞれ独自にタイトルが付けられている。しかし日本公開時には個別のタイトルは姿を見せずダーティーハリー2から5とのみ表示されているがこれは映画会社の卓見で、人気シリーズにはこの方が分かり良くアピール度も高い。しかし一方で下記のような反対の例もある。
6.~7. 勇気ある追跡:
「勇気ある追跡」は永年多数の作品で主演を務めたジョン・ウェインが初めてアカデミー主演男優賞を獲得した作品で原題とは異なる邦題が付けられた。この邦題は作品の特徴を伝えタイトル付けが成功している。
しかし6年後にこの主人公の名前をそのまま原題にした続編が作られたが邦題のタイトルは全く別の名前になってしまった。なぜ「勇気ある追跡2」あるいは「続 勇気ある追跡」にしなかったのか?知名度の高い第1作を考えると勿体ない感じが強い。
邦題の名付けは配給権を得た日本の映画会社が行うものでそこにはアメリカの作成者たちが意図したタイトルを敢えて作り直すという危険も存在する。
これまでにリストアップした邦題の名訳は日本の映画会社がある意味で社運をかけて命名した成功例であるがご覧のように1970年あたりを境に名訳がなくなったように私には感じられてならない。
映画界が熱く挑戦的、創造的な役割を担っていることを自覚し邦訳・超訳に推敲、呻吟を重ね後世に残るような名付けを行い、映画のヒットにも繋がるという風潮がなくなったのではないかと淋しく感じるこの頃である。
新作の邦題を観ているとインパクトを感じるものが少なく、過去の名邦訳をまねたようなものがあると正直がっかりするのは私だけだろうか?