第5回
〜 「面白そうなことに取り組んでみて、良さそうだったら周りに広げてみる」 〜
桐原 征雄

2009年に胃癌手術の後、終活を意識し、相続や葬儀に関する遺書作成や遺影の撮影などと併せて、大量にあった音楽テープやビデオテープをディジタル化して、CD・DVD化することに決めました。必要な機材やソフトを揃えて取り組みましたが、終わった時に他の人、例えばディジタル化が苦手なお年寄りや、多忙で時間が無くてビデオテープ等の扱いに困っている人に、このサービスを提供すれば受け入れられるのではないかと考え、以下のビジネスを始めました。

個人事業VEサービス

① VE(Visual Information Editing:ビデオ情報編集・複写):概ね成功
終活の一環として取り組んだビデオの編集・複写の技術を、他の人の役に立てると同時に、また幾らかの収入になるのではないかと思いつき、ビジネスとしてやってみることにしました。チラシのデザインを考え、印刷会社に頼み、そのチラシを近隣の市や町に配って回りました。歩くのが目的のウォーキングは苦手ですが、営業を兼ねての歩き(5000歩~15000歩)は何とか継続でき、健康維持にも役立ちました。また多くの道を踏破して様々な地域での草花や果物(枇杷,柘榴,山桃,柚子,茱萸など)の状況を把握し、他の趣味(果実酒作り)にも役立てることが出来ました。
地域への恩返しのつもりで、他社よりも安価に、そしてお客様の家に伺ってテープを預かり、出来上がったDVDをお届けするという「御用聞き・出前型サービス」を提供しました。宅配利用のための梱包などの手間なしで利用できるという簡便さが受け入れられたと思います。
最初はVHSテープだけが対象でしたが、お客様からの要望に応じて8mmビデオやmini-DV等、更には写真や音楽テープやMDカセットなども拡張できるようになりました。お客様の要望に育てられたという感じです。
ビデオデッキが壊れて見られなくなっていた子供や孫の懐かしい姿が蘇ったと喜ばれたり、あるお年寄りからの依頼で、亡き奥さんの写真をスライドショーにし、好きだった民謡と組み合わせてDVDを作ってあげましたが、涙を流して喜んでくれました。このサービスで、かなりの収益を上げることができ、その後の様々な取り組みの元手とすることができました。面白そうだと思って取り組んだいくつかの試みを以下に紹介します。

②VE(Vietnam Embroidery:ベトナム刺繍画販売):概ね失敗だが少しは役に立っているかも
ハノイに居た頃に、周辺にある陶芸村,絹の村,刺繍村,木工村など様々の伝統工芸村を訪れる機会があり、特に刺繍村では10代の少女達が熱心に取り組んでいる様子を見ました。頑張っている様子を眺めている内に、何か彼女達にしてあげられることはないかと考え、ベトナム人が全体に識字率が高く本を読むのが好きな人々だということに思い至りました。彼女たちが作る刺繍作品を日本で売って、収益が上がったら小さな図書室といろいろな本をプレゼントしようと考えました。それでかなりの量の花の刺繍画を買い込んで、日本で宣伝しましたが、残念ながらほとんど売れませんでした。実は、少女達が作っていた作品と、その他に人間国宝級の職人が作った作品を仕入れていたのですが、妻がそれを見て「国宝級職人の作品は売れるけど、その他の作品は売れないだろう」と予言しましたが、まさにその通りでした。と言うのも、日本の女性は器用で、少女達の作品程度は作れるということでした。少女達の作品でも素晴らしいものがあったのですが、予算との関係でそこそこのものを買った私の“眼”がダメだったということです。
余った刺繍画は、活用法をいろいろ考えた結果、東北大震災で仮設住宅(多分、殺風景)住まいの被災者の方々に、彩りの少ない冬に鮮やかな花の刺繍画で少しでも“和み”を感じてもらえたらと思い贈呈することにしました。石巻へ行って商工会イベントの賞品として被災者の方に渡してもらったり、名取市のFM放送局を通して渡してもらったりしました。FM放送局では、「東京から差し入れに来た」ということで、美人のキャスターから生放送のインタビューを受けるという初体験もし、また放送局を通して渡していただいた地域の方から、逆に手作り作品をいただくというおまけまでありました。
ビジネスとしては失敗でしたが、ベトナム・ハノイの少女たちの手作りの作品が、震災被災者の方の心に届いてくれたかなと思っています。

③VE(View Easy stand:見やすいスタンドの設計・製造・販売):ビジネスは不調だが、満足感はあり
携帯電話でワンセグ放送などを見ている時に、ずっと手持ちで見るのは疲れるので、置台を作ろうと考えました。
(因みに通話とメール用に携帯電話を使い、ネットアクセスは妻が買い替えて不要になったGalaxyスマホや買い替えのおまけについてきたXperiaタブレットをもらい、WiFi契約で併用しています)
いろいろ試行錯誤の末、斜めに置くデザインのスタンドを考案し使っていましたが、そのうちに「意匠登録」をしてみようかと考えました。理由は、自分の創造性が認められるかどうか確かめたいと思ったからです。先行例がないことを確認した上で、折角ならオンラインでやってみようと思い、特許庁のHPで「電子出願」手続きを勉強し、悪戦苦闘しながら朝から深夜までかかって申請することが出来ました(夜遅くまでサポートセンターが相談に乗ってくれたおかげでもあります)。
特許庁を訪れずに完全オンラインで申請する人はほとんどいないということで、少し誇らしく思いました。申請から1年以上経って、意匠登録証が送られていた時はヤッタ!と感激に浸りました。その後、スタンドの表面部分に奇麗なカバーを付けることを思いつき、商用利用可能なフリーの素材(Freepikなど素晴らしいデザインが多数あり)を見つけ出したり、更には著作権保護期間の切れた作品、例えば江戸時代の浮世絵作品などは外国人にも受け入れられるかなと思ったりして、より魅力的なものになるようにしました。東京オリンピックで訪れる外国人向けに英文チラシを作ったりしましたが、延期となってしまい残念です。
ビジネスとしては期待した程には売れていませんが、それでも「お気に入り」に登録してくれたりフォロワーになってくれたりして自分の作品を認めてくれたことに大いに感謝しています。初回に紹介した「くまモンの携帯&スマホスタンド」も、この延長上の作品です。先輩や同期の友人、それに各国の教え子たちが購入してくれましたが、一例を挙げるとロシア人の女生徒(と言っても、今は中堅社員です)が買ってくれたのですが、日本人の義母がお城の熱狂的なファンということで、気に入って取り上げられてしまったと話してくれました。

④VE(Veranda photo-voltaic Energy:ベランダ太陽光発電):まだ全く反応無し
東北や熊本の震災を経て、災害に備える(備災)ための自家発電の必要性を感じ、様々な発電方式の中から容量,安全性,騒音,費用などを比較し、太陽光発電を選びました。ただ一般に紹介されている太陽光発電システムは、パネルもバッテリーも大規模で数百万の費用と大きなスペースが必要となり、マンションの個人が取り組むのは不可です。
家庭の全電源の備えは諦めて、料理や暖房等の熱利用は都市ガスやカセットボンベ等に任せ、食料や薬品等を冷却・保存するための冷蔵庫を動作させることを優先しました。NHKの停電対策の番組では「電力トリアージ」と言っていましたが、まさに家庭内電力の優先度を付けて対応することが実際的だと思います。
こうして、ベランダに設置できる小規模発電を考えました。ただ一戸建てと異なり、マンションでは共同生活上の様々な制約があり、ベランダであっても勝手に発電パネルを設置することは出来ません。理事会と交渉し、①可動式であること ②可動であっても安全・安定に設置すること ③台風・強風時は室内に取り込むことなどの条件を満たすことで了承を得ました。
2018年後半からシステム構築(構成要素により5~8万円程度)し、TV,冷蔵庫への給電と動作確認へと進め、スキルと実績を積みました。2019年春から「災害への備え:地震や台風で停電になっても冷蔵庫を確保しよう!」として、コンサルティングビジネスを始めました。昨年は台風15号や19号により千葉で大規模停電が発生したこともあり、注目されて相談が多数来るかと思ったら、残念なことに皆無でした。しかしながら、平常時は主にTV,PC,部屋照明,スマホ充電などに、そして時々冷蔵庫に使って動作確認やデータ集積を行い、災害に備えています。
ただ、何事もなくスムーズに行っているわけではなく、重大インシデント、つまり「あわや大事故」になりかけたトラブルも発生しましたが(内容は言えない)、そのような経験を踏まえ安定と向上を目指してやっています。

⑤Webカメラを使った簡易防犯システム<計画中>
災害のような自然現象の発生を防ぐことは困難で、起きた後に備える「備災」が現実的だと思って太陽光発電に取り組んでいますが、一方で犯罪のような人為的な事柄に対しては未然に防ぐ「防犯」が可能だと思います。
コロナ禍の中、アポ電強盗や検針・宅配偽装強盗などの事件が頻発している状況であり、特に我が家はマンションの奥まった所にあって、余り目の届かないことから、自分で出来ることはやってみようと思い防犯システムについて、いろいろ調査しました。 完全な防犯は無理なので、「防犯の備えをしていますよ」という姿勢を見せて犯罪を事前に抑制することが大事だと思い、簡単なシステムを構築・実験してみました。例えばWebカメラと、余っている旧型パソコンやスマホ等を結び、玄関での人の出入りを動画或いは連写で記録するというものです。画像の変化を認識してアラームやメール通知なども使えそうで、いろいろ調査・実験しています。
この経験を基に、コンサルティングと簡単で安価な防犯カメラシステムの構築を始めようと取り組みを進めています。
ビデオ編集の時もそうでしたが、とにかくスタートしてやってみて、お客さんの要望に応えながらスキルアップして行くのはとても楽しく、また役に立つ仕事をして喜んでもらった時にはこちらもハッピーな気分になります。
「自分が楽しい+他の人の役に立つ」ことが、自分の生きるパワーになっていると思います。

⑥ビデオコピーのお客さん(老々で母親を介護している高齢の女性)から「代理購入」を依頼されました。内容は主に室内用のアクセサリーで、正直面倒だなと思いましたが、何度目かの配達の時に「好きなアクセサリーを届けてもらって揃うにつれて、だんだん生きる楽しみが出てきた」と言われて、「小さな幸せの配達」の役に立っていると感じました。


「余り考え過ぎずに行動する」ことをいろいろ紹介してきましたが、全てがうまく行った訳ではなく、「行動できずに今でも後悔している」ことも紹介しなければなりません。
13年前のハノイ時代に、日本の大学の有名な教授による「持続可能な社会(Sustainable Society)への取り組み」を聴講しました。その説明に対して、聴講していたベトナム人から「具体的な取り組み例」についての質問があり、教授が回答したのですが、残念ながら納得が得られるものではないものの、何となくそのまま終わってしまいました。
実はその時、私は答を持っていました・・・工科大学の学生に日本の自動車技術を紹介した際に、持続可能な社会のための自動車技術、例えばハイブリッドエンジンや最終的に自然に戻るプラスチック部品の導入,バイオエネルギーなどの取り組みを整理し、教えていたからです。それで教授の回答への補足説明として「ハノイにあるトヨタやホンダの工場でも取り組んでいる、或いは近い将来に取り組むであろう新技術」を紹介すれば、質問者も納得したと思いますが、その時言い出せませんでした。(多分、知らない大勢の人の前で話す勇気がなかったからだと思います)
あの時、勇気を出して発言していれば、何か変わっていたかもしれないと今でも夢想することがあります。

このような後悔をしないためにも、“一時の恥ずかしさ”を乗り越え、そして必要な時には“嫌われる勇気”(これは、オランダ人T氏とのレッスンで学んだ)を持って行動することに努めています。という訳で、嫌われることを覚悟の上で再度「熊本城再建の手伝いのための くまモンのスマホ&携帯スタンド(//www17.plala.or.jp/VE-SERVICE/)」 をよろしくお願いします。
買っていただければ、今後熊本城再建のニュースが流れた時に「スタンド購入を通して寄付したお金が、石垣や櫓の一片の整備に活かされているよ」と、家族やお孫さんに自慢できるのではないかと思います。

以上5回に亘り「私達シニアには思い煩う時間は無いので、面白そうなことを気軽に行動してみる」のいくつかの例を紹介させていただきました。 
日本語教師として心(好奇心と、好意と敬意)と体(脳,口,手足)を整え、また個人事業では「自分が楽しい+他の人の役に立つ」を念頭に、出来るだけ無理なく続けて行きたいと思っています。

最後の最後に・・・自分の生き方は家族に分かってもらえばよいと思っていましたが、思いがけず田中様から、このような寄稿の機会を与えていただき、心から感謝します。

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